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2014年8月19日火曜日

永久機関プロット01

サークル9e-として配布予定のゲームのプロットです。
(プロローグと2章になります。※1章飛ばしてます)
ただいまBGMを作ってくださる方を募集しています。
詳細はこちら

あらすじ

舞台は未来。多くの人が理想郷と呼ぶ世界で物語は始まる。
アパートの一室に引きこもっていた竹尾生は奇しくも、10年目のその日に保安官である安芸和澄に 見つかってしまう。生は仕方なく和澄と約束を交わす。「1年後この部屋を開けて、そこで30分会話する」というものだった。その約束の日までに生の元を3 人訪れた。一人は10歳ほどの少年、一人はショートカットの女子高生、一人は変わった青年。そんな彼ら彼女らとの出会いが生を変えるのか、変えないのか ――。そして、理想郷とは?


 僕の目の前に示されたのは、単純な結末だった。
 人間の両極にある解。無慈悲でどうしようもなく現実的な解。
 それは離れてみれば刺激的だ。他人を通してみる悲劇は美しいのだろう。だから美談なんてものが生まれる。そのことを忌諱するわけではなく、そういう側面を偽善などと断定するつもりもない。でも、初めにそれを見たという事実は胸を抉る。心臓を丸ごと引き抜くような圧倒的な暴虐に僕はいつもと同じく、しかし違った切り口で逃げ出した。いいや、それしか道がなかった。目の前の理想を壊してまで、逃げ切ることができなかったから。もう一度振り向くことを拒否したのだ。


 もう、疲れた。
 だから、生きる。
 死なないように、触れないように、世界から外れて、小さな箱で生きていく。

 少年は誓う。自分を規則でがんじがらめに縛って、命令する。

 そうして、見事にすり減らした。

 少年は、自分が何がしたいのか、何をしたいのか、さっぱり忘れてしまった。
 いや、忘れてない。すべて覚えている。
 ただ、磨耗して、薄れて、小さくなって、諦めただけだ。

 だから、今回で終わりにする、と誓った。
 今度こそ走らず、手を伸ばさず、ここでのたれ死んでやる、と自分を呪い縛りつけた。

 少年の決意は今までになく固かった。
 既に粉々になった彼には、小さな部屋だけで十分だった。否、必要だった。
 何も見ず、何も聞かず、何も知らず――。
 ただ食べて、飲んで、寝て。それが今、彼の望むものだった。
 それを淡々と続けていく。
 1年、2年、3年――10年。もちろん10周年だからケーキなんてものはない。
 でも、チャイムが鳴った。

 いつもの配達員のはずはない。頼んでいないのに来ることなどありえないからだ。
 何かの勧誘だろうと、少年は無視することにした。
 しかし、一向に音が止まらない。
 我慢比べのつもりなのか、延々と鳴る。
 1時間、2時間、3時間、5時間。
 いくら我慢強い少年でも、気にする程度にはなってきた。

「腕、疲れないのかな」

 と外れた関心だったが。
 ついでに時計を見ると、夜中の2時だった。
 彼もさすがに驚いた。

「これじゃ近所迷惑だな」

 とまた外れた点だったが。
 少年は気怠さを全身で表しながら暗闇を壁伝いに動き、ドアホンから相手を捜す。
 見えるのは腕だけだった。
 彼の心配通り、だらんと力がない。でも押すのはやめなかった。

「近所迷惑だし、彼女も可哀想だ」

 少年はそっと扉を開ける。宅急便以外の相手にこの扉が開くのは初めてだった。
 そして、彼がこんな時間に外を見るのも、今回では初めてだった。

 だからだろう、少年の頭の中で音がした。確実に何かを押した音だった。


 5時間もチャイムを押し続けると、人は青くなるらしい。
 何をしているのだろうかと考えるよりも街の風景に感心していると、チャイムを押していた人間――彼の推測通り女だった――がぎょろりと大きな目を動かした。
 死んだような顔に生気が戻ってくる。

「た、だ、竹尾生さんですね」

 喉をずっと動かしていなかったからか、せき込みながら女は言った。

「はい」一呼吸おいて、少年は続けた。「そうですけど、エリュスからの配達じゃないですよね?」

 それ以外はありえない、という口振りだっため、女は頬から顎辺りを指で撫でて視線を少年から少し離した。。

「いえ、違いますよ。あ、私が名乗ってませんでした」

 女はよろよろと上体を揺らし、足を震わせながら立ち上がって、一生懸命直立しようと力をいれる。結果、かなり不格好だった。
 そのまま、敬礼し、

「安芸和澄です。あなたを保護しにきました」

 ポカンと彼――竹尾生が口を開けた。
 今まで引きこっていた生は知らなくて当然だが、この地区では「少年少女よ外へでよう」というスローガンのもと、引きこもりを引きずり出す地区案が議決されたのだ。
 恐ろしや、生は引きこもるために生きていたというのに。
 日々を破壊されることを予見してか、詳しい話を聞かずに生は素早く扉を閉めようとした。だが、直感的行動も保安官である和澄の前では無意味だった。

「さ、行きましょう」

 笑いかけながら軽やかに語り掛けているが、和澄は指で扉を掴み強引にこじ開けようとしている。

「い、いやです」

 生が甲高い悲鳴声も上げるも、和澄の進行は止まらない。しっかり指を出しているので、無理やり閉めれないという事情があったとしても、5時間もチャイムを鳴らし続けていた人間の力とは信じられないものがある。抵抗もむなしく、扉は開かれた。そのまま和澄は生の腕を引っ張り、外に出す。生は小鹿のように足を震わせ、アパートの廊下に座り込んだ。そこへ、和澄が抱きつき、

「これから頑張りましょう。世界はこんなにも平和なんですから」

 と言った。
 平和な世界。戦争が根絶され、国というくくりがなくなった世界。文字通り平和な世界、と万人が言う。が、生は、生にとっては違った。
 彼の瞳には否応なしに映ってしまう。


 閉め切っていたはずの無地の青いカーテンから太陽の光りが差し込み、僕は意識を取り戻した。酷く混乱した頭脳はまだ何か言っている。それがはっきりした時、僕は扉を開けようとしていた。無意識だった。その瞬間、酷い傷みが体中を走った。一体、どこに貯蓄しておけばこんなに傷むのだろう。
 刺激は収まらないが、慣れてきたので、考え事をする余裕が生まれた。僕は何をしているのだ? いまさら戻ろうっていうのか?
 答えは――応えてはいけないのだ。僕は停まると決めたのだ。そうだ、それこそが望みじゃないか、僕はもう辞めたのだ。
 意志の弱い自分が嫌になって、嘆息をもらす。それもまた無意識だった。正直言って、さっきから自分のことがわかっていない。どこに取扱説明書を置いたのだろう。
 僕は頭を働かせる。ゆっくり丁寧に、説明するように動かす。
 その甲斐あって数秒の間に理解した。時間がかからなかったのは、僕が竹尾生という存在で、10年間ずっと同じことをし続けていたということだけだったからだ。
 しかし、はっきり言って、自分が竹尾生という名前だということに自信がない。あの時は咄嗟にそう答えただけだ。セイと彼女は呼んでいたが、ショウとか他にも呼び方はある。

「タケオ、ショウ。タケオ、セイ」

 大きく口を開けて発音してみたが、どっちも変わらない。 
 記憶を検索しなければならないほど久しぶりだった。それでも答えは出ていない。断片的で擦り切れていて、それを記憶とは呼べないほど不明瞭だったからだ。が、ハッキリしているものもあった。
 誰にでも公平に嘘を言わない。一種の法則で、絶対遵守の命令だった。何度も幾重に精神へと刻み込まれた思考パターン。それは宿命的なもので、呪いと表現しても誇張でも穿ちすぎということでもないはずだ。

 僕はこの部屋から出ない。ここで死んでみたいのだ。

 この部屋にいる限り困ったことはない。必要なものがあればボタン一つで届くし、誰も僕を傷つけない。箱庭だ。この狭く区切り途絶した世界にはなにもない。だから、棺桶ともいえる。そこは観点や感受性の問題だろう。
 あながち外れてはいないとも思える。僕の見方はかなり平坦だからだ。平凡ではない平坦だ。扁平だ。岩が川に流れている間に丸くなるようなもので、僕も紆余曲折あってこうなったらしい。ついさっき理解したことだが、僕には記憶という記憶がないのだ。
 いきなり引きこもり生活から始める人間のほうが少ないだろうし、僕もその過去を誇るつもりはない。それだけはしてはいけない。記憶がハッキリしないけれど、このことに関しては断定できる。
 もし、そんなことを考えれるのなら、僕は恐らくここにはいない。このことは自分の根幹から否定するようなことなので、絶対とは言えないが、8割は保証できる。この確率は当たっているはずだ。人間は劇的に変化できない。だから、僕の数えきれない――本気で臨めば可能だが――挫折経験から推論するとそうなる。

 あれ? 僕は何を言っているんだ?

 必死になって頭を停めた。数年ぶりの対話は脳に支障をきたしたらしい。記憶がない人間が、経験などというのは変な話だ。

 しかし、それでも残っている事実があった。
 僕は弱く揺らぎやすい存在で、取るに足らない生き物だ。それでいて呪われている。
 そして、死を目指している。


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